実は大きな暗闇に陥っていたパークウェイ・ドライヴは、
この逆境を乗り越えることができるのか?
今年9月にニュー・アルバム『Darker Still』をリリースしたばかりのパークウェイ・ドライヴだが、実は大きな暗闇に陥っていた。
遺体安置所で怒りをあらわにするウィンストン・マッコールが、そのワケを吐き散らす。母国オーストラリアでの洪水、それに連れなる人々の死、そしてバンドでの役割の違いが生み出した疎隔……さまざまな要因で彼らはグループ・セラピーを受けることになった。
そんなバンドのうつむいた心境は、セラピー以前に制作した新作から追体験できるはず。果たして、パークウェイ・ドライヴはこの逆境を乗り越えることができるのか?
Interpretation by Mirai kawashima
ーお前は俺らに嘘をついた!
正面に座っているシルエットの人物から、そんな言葉が轟くと、目の前にある壊れそうな古いテーブルに拳が叩きつけられた。その音が、我々がそのなかで震えている遺体安置所の壁にこだまする。
“お前は嘘をついた。言い逃れはできない。お前が起こらないと言ったありとあらゆることが起こったんだ”。
ウィンストン・マッコールは怒っている。パークウェイ・ドライヴのヴォーカリストとは4年間会っていなかったが、彼がロンドンにあるパンクラス教会の、この暗いジメジメした遺体安置所を待ち合わせ場所に指定したせいで、現在彼の姿はよく見えない。にもかかわらず、彼のはらわたが煮えくり返っていることはわかる。
“政府は何年間も計画を実行し、「被害が起こらないように努力をするから、その分税金や保険料は増加する」と言い続けてきた”と彼は続ける。“「こんなことは起こらないだろう」と言われていたんだ。50年に1度のことだと言われ、それから100年に1度、そして500年に1度だと。それがほんの数週間のうちに2度も起こったのさ。今や家が破壊され、所有する土地が文字どおり水中に没し、使いものにならなくなった人たちがいる。川の底にある土地を誰が買うと言うんだ? こういう低所得の人たちは、どうやってここから立ち直るってんだ? 俺たちは何年間も、こういうことが起こると言い続けてきたのに。俺たちは……”。
2022年2月、複数回の洪水がオーストラリア東部を襲った。家は倒壊し食料不足が報告され、1000の学校が閉鎖、住民は避難をしたが22人が命を失った。ブリスベンでの<3日間で677ミリ>という観測史上最高の降雨量は、オーストラリアの歴史上、最悪の出来事のひとつだった。本土の最東端であるバイロン・ベイの住民であるパークウェイ・ドライヴのメンバーは、これらをすべて目撃した。
しかもこのことは、パークウェイ・ドライヴ史上、最も問題の多い時期に起こった。そして4月6日、彼らはUSツアーをキャンセルするという声明を発表。そこでは「このバンドにいるという過酷な状況のせいで、個人として自分たちが何者なのか、何者になりたいのか、そしてそれが自分自身や自分たちの友情に損害を与えるかについて考える時間がほとんどない」という内容が語られたのだった。
外部の視点からすると、これはずいぶんと厄介に聞こえる。一体何が起こっていたのだろうか?
遺体安置所のなか我々の前で、ウィンストンは今も“「事前の警告で被害を抑えることができたに違いない」と信じている”洪水災害の衝撃について激昂している。“俺が言わなくちゃならないんだ。メディアは起こったことを報道しないからね”と言う。“洪水の警告はあったけど、その後突然ヤツらは洪水は起こらないと言い出したんだ。数日間、ヤツらは洪水は起こらないだろうと言っていた。そして洪水が起こる30分前、俺たちは聞いたのさ。「洪水が来る」ってね。一体どうしろというんだ?”。
“ヤツらによれば、それはだいたい1階建ての高さだと。でも3階建ての高さのケースもあったんだ。それらの家は破壊され、洪水が去ってのちにみんなは保険小切手を使って家を建て直した……そしてその1ヵ月後、同じことが起こったのさ。彼らはもう街を再建しないかもしれないし、それらのコミュニティは永遠に失われてしまうかもしれない。こんなことが何度も起こる場所に、どうして留まろうなんて思う? 今なお陸路でたどり着けないから、食料をヘリコプターで空輸してもらわなくちゃいけない人たちもいるんだぜ”。
数日後、ZOOMを通じてバンドのギタリスト、ジェフ・リンからもこの出来事についての話を聞いた。“こんなことを言うのは悲しいけど、かつて俺は世界中を旅して、オーストラリア人であることを誇りに思うと言っていたんだ”と彼はため息をつく。“今は違う。俺たちの政治にはムカムカするよ。あの政府は、これらの人々に完全に背を向けたのさ”。
洪水の余波のなか、当時の首相スコット・モリソンがリズモーの街を訪れた際、抗議者たちは警官の列によって彼に話しかけることを妨げられ、引き離された。政府が人々を見捨てたという意見は一般的なものだが、このような逆境を目の前にして、地域住民たちが助けを申し出た。“俺はニヒリズムを受け入れ始めていた”とウィンストンは言う。“だけど、そういう人たちが少しの希望を与えてくれたんだ”。
ジェフは、彼のパートナーが“高齢者や、小さな子供やペットを連れていて困っている人が助けを求められるFacebookのグループ”をいかにして立ち上げたかを語ってくれた。そうすることで、ボートと救援物資を持ったボランティアたちが彼らを見つけ、安全な場所へと連れて行いってくれる。“彼女を誇りに思うよ”と彼は顔を輝かせる。
◎続きは『METAL HAMMER JAPAN Vol.12』 でどうぞ